東洋医学の世界では、よく内臓性の腰痛とそうでない腰痛に分けたりしますが、
例えば重いものを持ったり・転倒したり・事故にあったり等の急性の外傷以外は、ほとんどは内臓が関係していると考えてよいでしょう。
すなわち、多くの場合が内臓性の腰痛だということです。
疲労により筋肉に力が入らない・靭帯が緩んでいることによっておこる腰痛もやはり内臓性の腰痛と考えるべきでしょう。
特に、腰と深く関係している臓器には、腎臓があります。腰は「腎の府」といわます。
府とは暮らす場所のことを言い、腰は腎にとって家にあたります。腎が、丈夫でないと腰も丈夫になりません。
また、腎は骨を支えます。骨の生成と深く関わっている臓器です。
ほかにも、脾臓は筋肉を支え、肝臓は靭帯等を支えます。このように、内臓と筋骨は切っても切り離せない存在なのです。
そのことを前提に、腰のことを話していきたいと思います。
一口に腰痛と言っても、色々なタイプの腰痛があります。
皆さんよくご存知のヘルニア、正式名称は腰椎椎間板ヘルニアといいます。
これは、椎間板という腰椎の椎体と椎体の間にあるクッションの役目をしているものの中にある髄核というゼリー状の物体が
飛び出たことにより腰神経が圧迫され、発症する腰部・臀部・下肢の麻痺や痺れ・痛みのことをいいます。
これは、髄核がまだみずみずしい時にしか発症しません。すなわち、20代・30代の若い頃におこりやすい疾患です。
40代になってくると、椎間板はだんだんと水気を失い薄くなってきます。そうなると、ゼリー状だった髄核も柔軟性を失い、飛び出してこなくなります。
そうなると、椎間板ヘルニアは起こらなくなってきますが、かわりに、脊柱管狭窄症が起こりやすくなります。
これは、椎間板が薄くなることにより、腰椎を守っている靭帯がたるみ、そこにカルシウム等が沈着すると骨棘という骨のでっぱりができてきます。
これによって、腰神経を圧迫するようになるのです。
症状は椎間板ヘルニアとよく似ていますが、あまり長く歩けず、しゃがんだりして、少しずつ休みながらでないと歩けない「間欠性跛行」と言う症状が出てきます。
椎間板ヘルニアがなくなってくる50代から多くみられるようになってきます。
次は、おなじみのぎっくり腰についてお話しましょう。
筋・筋膜性腰痛のことです。
筋・筋膜性腰痛とは、筋の表面の筋膜に炎症が起きていることをいいます。
腰の体表面から最も浅いところに疾患のある腰痛症です。
ですから、治療もごく簡単で、そこにある筋膜の炎症を散らしてやるだけで簡単に良くなります。
ただ、ぎっくり腰と言われて来院される患者さんに、本当はぎっくり腰ではない人が多くいます。
先程言ったように、ぎっくり腰とは筋膜の炎症だけのことをいいます。
間違われている腰痛のほとんどは、関節性の腰痛です。
この腰痛も、急に「ぎくっ」と起こることがあるので、勘違いされる方が多いのだと思います。
この鑑別さえちゃんと出来れば、ぎっくり腰は1.2回で良くなります。
昔、私が学生の頃、先輩にぎっくり腰なんか簡単に治さないと、鍼灸で食っていけないと言われたのを思い出します。
先程述べましたぎっくり腰とよく間違われるとても頻度の高い腰痛に、椎間関節性腰椎症があります。
重いものを持ったり、悪い姿勢で行うような仕事を長く続けていると、関節が少しずつ変形してきておこる腰痛です。
後屈(後ろにそる姿勢)がしにくくなる・後屈すると痛みがでます。
特に、朝起きた時に激しく痛みます。また、関節自体ではなく関節のまわりにある関節包を痛めることによって急性の関節性腰痛のような症状がおこることがあります。
やはり、朝起きた時の激しい痛み・体位をかえるとき等、腰椎を動かすことによって起こる腰部の痛みが主体です。
どちらの治療もほとんど同じですが、慢性になればなるほど治りにくくなります。
もうひとつ、今はあまり使われない言葉ですが、スプラングバックという腰痛があります。
スプラングバックとは、棘上靭帯の損傷のことです。
これは、色々なタイプの腰痛の過程でもみることがあります。
特に、加齢に伴った椎間板の萎縮や腰椎関節の軟骨のすり減りによって、棘上靭帯がたるみ炎症がおきると思われます。
また、その人にとって一番体重のかかる腰椎部に多く出るようです。
棘上靭帯とは、背骨の一番上を走っている靭帯で、手で擦すり触れる事ができます。また頚部では、項靭帯と呼ばれる靭帯が走っています。
そして炎症がある場合、棘間上を指で押すと、圧痛があります。そこは棘間がゆるく、靭帯が緩んでいます。
治療法としては、2種類の考え方があり、前者は患部の症状を治すために、圧痛部にお灸をしていきます。
この治療は、即効性があります。後者は、関節・筋肉等、原因となるものを根本から治していきます。
たとえば、原因となっている関節軟骨の再生を早めるような治療を行います。
それには、中医学の考えを取り入れていきます。腰を支えるのに一番重要な臓器は腎臓です。その腎臓の力が落ちていれば、
元気を持ち上げてあげるような治療を同時に施していきます。
症状をとることを標治、根本の原因を無くしていくことを本治といいますが、病気の再発を防ぐためにも、この両方を行うことが望ましいでしょう。